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大阪高等裁判所 昭和63年(ラ)168号 決定 1988年7月20日

昭和六三年(ラ)第一二六号事件抗告人、同第一六八号事件相手方

右代表者法務大臣

林田悠紀夫

右指定代理人

梶村太市

白石研二

鳴海雅美

昭和六三年(ラ)第一六八号事件抗告人、同第一二六号事件相手方

尹昌烈

右代理人弁護士

小野誠之

小山千蔭

塚本誠一

出口治男

坂和優

中島俊則

三重利典

主文

本件各抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は各事件抗告人の負担とする。

理由

一本件各抗告の趣旨、理由及び意見はそれぞれ別紙記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  当裁判所も、抗告人尹の本件文書提出命令の申立ては、原決定が認容した限度において相当であると認め、その余の部分は失当であって、抗告人らの本件各抗告はいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に付加する外、原決定がその理由において説示するところと同じであるから、これを引用する(但し、原決定一二枚目表七行目末尾に「(東高決昭和六二年六月三〇日判例時報一二四三号三七頁参照)」を加える。)。

(抗告人国の主張について)

(一) 抗告人国は、民訴法三一二条三号後段にいう法律関係は、私法上の契約関係に限定されると解すべきであり、従って、本件第一ないし第三文書は、右法律関係文書に該当しない旨主張する。

しかしながら、右法律関係は、抗告人国の主張する私法上の契約関係にのみ限定されるものではなく、また、法律関係「ニ付」とは、右法律関係と関連性を有する事項が記載されていることを要すると解されるところ、前記原決定理由説示(同九枚目裏二行目から同一〇枚目表四行目まで)のとおり、抗告人尹(本案事件原告)は、外登法違反被疑事件の被疑者として、捜査機関による捜査の対象になったというにとどまらず、抗告人国(本案事件被告)の機関により発付された逮捕状により本件逮捕という具体的な処分を受けたものであるから、右挙証者たる原告と捜査機関(右文書所持者である京都地方検察庁を含む)との間には、本件被疑事件による捜査法律関係並びに右逮捕状発付の適法性をめぐり、原告の身体及び自由等の法的地位の侵害を内容とする法律関係があるものということができ(前掲東高決昭和六二年六月三〇日、東高決昭和六〇年二月二一日、判例タイムズ五六〇号一三九頁、判例時報一一四九号一一九頁参照)、従って、本件逮捕に係る逮捕状の請求に際し、疎明資料として添付された本件第一ないし第三文書は、右法律関係文書に該当すると解するのが相当である。

なお、抗告人国は、本件第一ないし第三文書が自己使用文書である旨主張するけれども、原決定理由説示(同一〇枚目表九行目から同裏六行目まで)の事情の外、右司法警察職員作成の捜査報告書ないしは供述録取調書は、捜査機関自らが、当該被疑事件の証拠の収集及びその記録を目的として作成するものであり、従って、一般に、後日公判に証拠提出を予定される書類であることは当裁判所に顕著であるから、右主張も理由がないことが明らかである。

(二) 本件第一ないし第三文書につき、守秘義務により右提出義務を負わないとの主張について

抗告人国は、右文書には民訴法二七二条、二八一条一項一号等の諸規定が類推適用されるところ、同法二八三条一項の類推適用により、民事裁判所は、右提出義務の存否について判断できない旨主張する。

しかし、民訴法三一二条所定の文書提出義務が、裁判所の審理に協力すべき公法上の義務であり、基本的には証人義務、証言義務と同一の性格のものであって、前記規定の類推適用が認められるとしても、証人に関する右すべての規定が、当然に類推適用されると解すべきものではなく、当該文書の性格等に鑑み、個々の規定の類推適用の可否については、なお検討を要する。そして、前記文書は、刑訴法四七条本文の「訴訟に関する書類」に含まれるものであるから、同条但書により、公益上の必要その他の事由があって相当と認められる場合には、公開が許されるところ、文書提出命令申立の採否にあたり、裁判所が、右守秘義務の範囲を具体的に画することを否定するものでないと解すべきことは、引用にかかる原決定理由説示(同一一枚目表五行目から同一二枚目表七行目まで)のとおりであるから、右主張は失当である。

抗告人国は、同条本文は、刑事司法の適正かつ円滑な運営に資するという一般的利益の保護をもその目的とするから、個別的にみれば特に名誉等を毀損するおそれがなく、また、具体的事件の遂行に支障がない場合であっても、公開することにより、国民の捜査への積極的協力が得られなくなるなど、国の捜査権の行使に支障を来すことが明らかである以上、右非公開文書に当たると主張する。

しかしながら、同条本文は、訴訟に関する書類か、公判開廷前に公開されることにより、訴訟関係人の名誉を毀損し、公序良俗を害し、または裁判に対する不当な影響を引き起こすことを防止する趣旨の規定であって(最判昭和二八年七月一八日刑集七巻七号一五四七頁参照)、右一般的利益の保護をも目的とするものとは、到底解し得ないから、右主張も理由がない。

原決定理由中で説示の分を除く、その余の抗告人国の主張は、いずれも独自の見解に基づくものであって、採用するに足りない。

(抗告人尹の主張について)

抗告人尹は、文書の表示としては、能う限り名宛人、日付等により具体的に特定し、「外国人登録法違反、尹昌烈に対する昭和六一年四月一七日付け京都地方裁判所裁判官和田真による逮捕状発付、同年同月一八日引致にかかる逮捕請求書及び疎明資料等一件記録一切(本件第一ないし第三文書を含む)」と記載しており、右記載及び「文書の趣旨」の記載を総合的に斟酌して判断すれば、文書提出命令申立における文書の表示として、特定性に欠けるところはないから、本件第一ないし第三文書及び逮捕状請求書以外の文書について申立を却下した原決定は、取消されるべき旨主張する。

民訴法三一三条が文書提出命令の申立に際し、一号で「文書の表示」を明らかにすることを要求しているのは、文書提出義務判断の前提として、先ず提出すべき文書を特定させ、これにより、二号の「文書の趣旨」と合わせて、四号の「証すべき事実」との関連性を明らかにし、証拠としての必要性の判断を可能にさせることにあり、従って、「文書の表示」としては、文書の種別、標題、作成者、日付等により、他の文書と識別できるように当該文書を特定するを要することは、原決定理由説示(同五枚目表一行目から同裏八行目まで)のとおりである。

但し、相手方所持の文書など、申立人が、当該文書を閲覧したこともない場合には、その詳細が不明であるから、右要件を厳格に貫くことは必ずしも妥当ではなく、ある程度の包括的な記載が許される場合のあることは肯定されるとしても、法が、文書所持者に対し、右提出義務及び、これに従わない場合には、同法三一六条の不利益まで課している制度の趣旨に鑑みれば、個々の文書について、具体的に前記要件の判断が求められるものと解さざるを得ないから、右包括的な記載ではあっても、なお、右個々の文書を表示していると認められるものでなければならない。

これを本件についてみるに、本件申立の文書の表示は、前記のとおりであり、逮捕状請求書及び本件第一ないし第三文書については、具体的に記載されて右特定がなされているものの、その他の文書については、「疎明資料等一件記録一切」と記載され、例示されている右各文書の表示を併せて勘案しても、前記個々の文書の表示とはなし得ず、従って、裁判所も前記要件の判断ができないものであるから、文書の表示として特定性に欠けるところはないとする同抗告人の主張は採用できない。

2  以上、原決定は相当であって、抗告人らの本件各抗告は理由がないから、いずれもこれを棄却し、抗告費用は本件各事件抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官上田次郎 裁判官川鍋正隆 裁判官若林諒)

別紙<省略>

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